毛づくろう猫の道しるべ
 サッカー部で一緒の気弱な落合君も同じクラスになり、この落合君が急激に身長が伸びて体が引き締まり、しゅっとしてかっこよくなっていた。

 サッカーボールを追いかけている時は誰よりも鋭く、しつこく相手に付きまとうから、その活躍ぶりが目立って女子のファンが急上昇中だった。

 落合君もレギュラーを手に入れたことで自信がついたのか、少し貫禄が出ている。

 ここでも一人変化を遂げた。


 サッカー部にも新たな一年の部員が入ってきて、マネージャーになりたいと名乗りを上げる女子たちもいた。

 新しい制服に包まれて初々しく、あどけない子供っぽさが伺える。

 キャーキャーとしたミーハー的な部分もあるが、まあいいだろう。

 そんな女の子達から、「先輩、先輩」と呼ばれ、変な気分だった。


 私はこの子たちの目からみたらどんな風に見えるのだろう。

 うかうかとしていられない、先輩としての矜持が急に湧いてきた。

 私でもこんなに変化を感じるくらいだから、近江君は一体どんな風に変わっているのだろうか。

 思いっきりアメリカ被れして、『ミーは……』などといい始めたらどうしよう。


 近江君が戻ってくる日が迫るにつれ、今度は会うのが怖くなってくるようだった。


 すでに忘れられて無視されたら…… 

 別人のようになって原型を留めてなかったら…… 

 自分と同じ場所を目指してなかったら…… 


 何の連絡もないから不安だった。


 もし、そうだとしても、私はこれまで自分で選んだ道を進んできた。

 後悔はないし、反対にとても充実して有意義だったと思う。

 それは近江君という存在があったから、それを目指して頑張ってこれた。


 これが近江君が言っていた、自由でなければならないってことだと、今ならとても理解できる。

 近江君がどうであれ、私は自分がやってきたことに自信を持っていた。

 色々心配する前に、私は堂々と自分の姿を近江君に見てもらいたくなった。


 時は立ち止まることなく過ぎて行き、いつの間にかブンジの一周忌を迎えた。

 悲しみもすっかり癒え、ブンジの遺骨も私の机の端でデコレーションのようになってしまった。


 少し埃も被っている。

 ごめん、ブンちゃん。


 でも、ブンジの事はいつまでも大好きだった。

 ずっとずっと心に残る猫であることには変わりない。


 そして私は近江君が戻ってくるまでにやらなければならない事がある。

 これだけは図書館で偶然本を見つけてから、計画してずっとやってきたことだった。
 

 近江君とは誰もが音沙汰なしだったが、草壁先輩宛に櫻井さんからは時々連絡が入ってたらしい。

 そこにちょこっと近江君の事も書いてあり、とても積極的にクラスで馴染んで人気者だとあったそうだ。

 櫻井さんも、日本のビューティとして、デートの誘いが多く、気軽にそれを楽しんでいるらしかった。

 それを聞いた時、私は心の中でガッツポーズをとっていた。

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