毛づくろう猫の道しるべ
 決して髪の毛だけが原因じゃなさそうに、希莉が溜息を吐いた。

「希莉、髪の毛ならおかしくないよ。どうかしたの?」

 あまり思わしくない状況に、私は恐る恐る聞いてみる。
 
 希莉は手鏡をなおしてから、私と向き合い、大きな瞳で人懐こく見つめた。

 最初から聞いて欲しくて、待ってましたと思わせるような表情。

 今までが前フリの序章に過ぎなかった。

 構ってくれたのが素直に嬉しいと、その後希莉は惜しみなく心開いて身の上を語りだす。

「ちょっとね、訳ありでさ、大変だったの」

 もったいぶったように始まり、私達が気になって身を乗り出すと、希莉の独擅場が始まった。

 見るからにヒロインで違和感がないからさまになっている。

「彼と喧嘩しちゃってさ。それでむしゃくしゃしてたの。もう酷いんだよ」

 この先ももっと聞いて欲しいと小出しに語り、私達の好奇心も増してくる。

 何が起こったのだろうかと、ハラハラしていたその時、タイミングよくスマホの音が鳴り、希莉ははっとしてすぐにスマホを取り出し確認しだした。

「あっ、噂をすれば彼からのメールだ」

 ぱっと表情が明るくなるも、暫く画面を見つめ翳りだした。

 納得行かずぷくっと頬が膨れる。

 柚実と私は、困ったように顔を見合わせ、苦笑いになっていた。

 希莉は我が道を行くタイプだから機嫌が悪くなるとあれこれ言っても仕方がなく、放っておいて成り行きを見守るしかなかった。

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