さよならはまたあとで
歩き始めてから20分後、私は『中村』の札が掛けられた少し古めの一軒家の前に着いた。
葛城の家とよく似た建物だった。
明良の細くて長い、綺麗な指がインターホンを押す。
少し間をおいて、「どちらさまですか」と女の人の声が聞こえた。
「渡井明良です」
彼がそう言うと、バタバタと廊下を走る音が聞こえ、それからすぐに扉は開いた。
「あきちゃん久しぶり」
現れたのは私のお母さんと同じくらいの歳の女の人だった。
どことなく燈太に似ていて、彼女が燈太のお母さんであることはすぐに分かった。
燈太のお母さんは私を見ると首をかしげる。
「この子は…?」
「あっ、日高優恵です」
私は慌てて名前を言ってお辞儀をした。
顔を上げると、燈太のお母さんは驚いた顔で私を見つめていた。
「あなたが優恵ちゃんなのね。…燈太からよく話は聞いていたのよ。でもあの子、恥ずかしがって家に連れてこなかったから…やっと会えたわね」
燈太のお母さんは綺麗な瞳にうっすらと涙を浮かべて頷いていた。
「私は燈太の母の中村小春です」
小春さんは私のようにお辞儀をすると、明良と私を家に上がるように促した。