さよならはまたあとで
私は事件以降、両親に学校の送迎をしてもらっていた。
しかし、共働きの両親は忙しく、時間ぴったりに迎えが来ることはなかなかなかった。
教室を締め出されると、私はいつも校舎の一角に寄りかかり、江戸川乱歩の本を読んだ。
「ねぇ、その人の本、好きなの?」
青空の綺麗だったあの日、彼は私に話しかけた。
突然の事で、私は驚いて本を落としてしまった。
燈太はサッカーボールを地面に降ろし、しゃがんで本を拾うと、砂埃で汚れた表紙を右手で軽く払って、私に渡してくれた。