さよならはまたあとで
私は下を向いたまま、小さな声で「ありがとう」と言って本を受け取った。

「僕も江戸川乱歩好きなんだ。だから、話が合いそうだなって思って。」

私はこくこくと小さく頷く。
そんな私を見て、彼は不思議そうな顔をしながらこう言った。

「あのさ、…どうしていつも下ばっかり向いてるの?すごく可愛いのに。」

彼がさらっとそんなことを言うものだから、私はまた本を落としてしまった。

今度は自分で拾って、もう落とすまいと両手で抱え込む。

「だって、怖い。」

彼は、あぁ、そういえば。という顔をした。

彼は私が誘拐事件に遭ったことを知っているようだった。

「なんか、ごめんね」

彼はそう言って、私の隣に寄りかかった。
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