さよならはまたあとで
「誰か待ってるの?」
地面に置いたサッカーボールを足でいじりながら彼は私の顔を覗き込んだ。
慌てて目を逸らし、「お母さん」と私は答えた。
「そうなんだ。僕、これから公園にみんなとサッカーしに行くけど、優恵ちゃんの家まで送るよ。実はね、僕の家、優恵ちゃん家の近くなんだ。」
彼はそう言って壁から離れた。
「私の名前…」
「知ってるに決まってるじゃん。隣の席だよ?」
「そうだよね」
「僕の名前はわかる?」
彼はそう言って私を見つめた。
「ごめんね」
私はポツリと謝った。
「いいんだよ。じゃあ自己紹介!
僕は中村燈太。好きな色は赤。
好きな食べ物はメロン。好きな動物は猫。
次は優恵ちゃん!」
彼は明るかった。
声はどこまでも優しくて温かい。
顔を見たいのに、どうしても首がギプスで固定されたみたいに動かなかった。