それを愛だというのなら
「バカにしてる?」
「してないよ」
健斗はにっと笑うと、自転車を引いて歩き出す。
私も慌てて、その後を追った。
「実は家がけっこう遠くてさ、駅まで自転車で、その後電車に乗らなきゃいけないんだ」
「じゃあ、駅まで一緒ね」
駅までは自転車を引いて歩いて、三十分くらいだろうか。
少し遠くに家がある生徒は、健斗とおなじように駅から自転車やバスを使ってくる人が多かった。
自分の家は、駅まで行くと実は少し遠回りになる。
けれど、まったく別の方向というわけではないので、そこまで歩くのは苦にならなかった。
その間に、私たちはテスト期間中をどうやって過ごしていたか、他の教科の手ごたえはどうだったかというようなことを話しながら歩いた。
たっぷり時間はあるはずなのに、私は聞こうと決めていた、健斗の中学時代のことを聞けずにいた。
聞きたかったけど、やっぱり立ち入ってはいけない気がして。