それを愛だというのなら


「死期が近づいてきたから、夢でなくても近くにくることができるようになった」


死期。そう聞いてどきりとする。

二か月の猶予期間。既に二週間が経ってしまった。

私は着実に、死に近づいているみたい。

死期が近い人間には、死神が見えるのか……。

そう言われて、死神くんの輪郭が、まるで水墨画のようにぼんやりにじんでいることに気づく。

死ぬ直前になったら、この輪郭がもっとはっきり見えるようになるのだろうか。


「調子はどうだ」

「まあ……順調かな」


死神くんは壁にもたれ、腕組みをしている。


「そう言うわりに、顔は明るくない」

「えっ」

「この世にもっと生きたいという、未練がにじみ出ている」


そんな。未練がにじみ出ているだなんて、いったい私はどういう顔をしていたんだろう。

ぺたぺたと自分の頬を触りながら、依然死神くんに会った時の会話を思い出す。

この世に強い未練があると、死神が迎えに来ても、地べたにへばりついて動かない幽霊になってしまうと。


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