さよなら、もう一人のわたし
「怒ってないよ」
「もしかして京香の前にいい人が現れるかもしれないのが嫌なの? 新しい出会いとかありそうだもんね」

 彼女はからかうように言った。
 わたしは自分の顔が熱くなるのが分かった。

「は? ばかじゃねーの?」

 そんな声が聞こえてきたが、わたしは尚志さんを見ることができなかった。
 恥ずかしいのと、彼の表情を確認するのが怖かったのだ。

「わたし知っているんだもん。お兄ちゃんが京香のこと好きだって」

 千春は妹の友人として、もしくは友人として好きだと言っているわけでもないのだろう。
 そう理解し、顔が赤くなるのが分かった。
 もちろん、千春の思い込みの可能性も分かってはいる。

「千春」
「本当のことでしょう?」
「分かったから、とりあえず外に出るぞ」

 尚志さんはそのまま千春を引きずるようにして、外に連れて行った。
 部屋が静寂に覆い隠された。
 成宮秀樹は軽く咳払いをした。
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