さよなら、もう一人のわたし
 あれから十日が経過し、尚志さんからは一度も電話をかかってくることはなかった。わたしも連絡をとっていないのでどうこう言えないが、いつもいつもは一週間に一度は何かと電話をしてきてくれていたため、そのギャップに戸惑っていた。
 忙しいんだろう。そう考えても胸の奥が締め付けられていた。

「考えごと?」

 千春がわたしの顔を覗きこんだ。

「なんでもないよ」

 千春は勘がいい。だから、わたしは極力彼女の前で尚志さんのことを考えないようにしていたが、うっかり考えてしまっていたのだ。

「今日の帰りね、わたしの家に来て」
「尚志さんは?」
「家にいるんじゃない? 最近よく家にいるから。大学も休みが多いみたい。学園祭とかあっていたみたいだし」

 それでもわたしには電話をくれなかった。
 つきあってもないわたしにそんなことをする義務もない。
 連絡をしてくれなかったことが彼はわたしのことをなんとも思っていないと伝えているのかもしれない。

 意識していたのを悟られないように、普通に接しよう。

 千春の家に着くと、彼女の家に寄ることになった。
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