さよなら、もう一人のわたし
彼はそのままわたしを見ないでリビングを出て行った。彼が歩いていったのは玄関のほうだ。
わたしと千春は目を合わせた。
「あとでと言ったのに。また明日ね。それは持って帰っていいよ」
わたしは脚本を鞄の中に入れると千春に別れを告げ、玄関まで行く。だが、尚志さんはもう玄関にはいなかった。
靴を履き、外に出ると尚志さんが門の外に立っていたのに気付いた。
彼はわたしを一瞥すると、そのまま歩き出した。
彼の態度はわたしを嫌っているとしか思えなかった。もうわたしのおもりをするのが嫌になったのかもしれない。
わたしの前を歩く尚志さんの後姿がぼやけてきた。
「大学はどうするの?」
突然不意打ちのように聞こえてきた言葉に、わたしは軽く涙をぬぐい深呼吸した。
「行きたいけど、どうしようか迷っています。中途半端になるのが怖くて。留年はしたくないし」
尚志さんは振り向かずに言葉を続ける。
「撮影は一年もかからないから終わって受けたかったら受けてみてもいいかもな。どの大学受けるつもりだったんだ? 君って結構成績いいんだよね?」
「尚志さんと同じ大学です」
彼がわたしの志望校に通っていたのは千春から聞いて知っていたのだ。