さよなら、もう一人のわたし
「来年浮かれば俺の後輩だったんだ」

 魅力的な言葉だった。

「今、三年ですよね?」

 尚志さんは頷く。

「来年受かれば一緒に通えたかもしれないですね」
「そういえばそうだな。でも授業は一緒じゃないから。俺は卒論しかとる気ないから」

「そうですよね」
「やりたいだけやればいいよ」

 彼はそう言うと、振り向いた。
 そのときの彼の表情はどこか寂しくて、わたしの心を締め付けた。


 わたしは家に帰ると何度もその脚本を読み返していた。千春の伯父さんが書き直したのだろうか。ところどころ現代にアレンジされていて、より共感できるものになっていた。

 ラストに差し掛かったとき、ドキッとする。そこにはキスシーンがあったためだ。
 前の映画にもあったためあったことは知っていた。だが、わたしが出るということはキスをしないといけないわけで。

「相手役は誰がやるんだろう」

 わたしは尚志さんの顔を思い浮かべていた。

 彼ならいいのに。
 彼にはその気がないことは分かっていた。それでも役の上でも恋人になれたらどんなにいいだろうと思わずにはいられなかった。

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