さよなら、もう一人のわたし
 高校三年になった。尚志さんとはあれ以来一度も会っていなかった。千春も何か察したのか、兄から言われたのか、わたしの前で尚志さんの名前を出すこともなくなっていた。

 あの話がなければ一緒に初詣に行ったり、クリスマスを祝ったりすることができたのではないか。出ると決めたはずなのに、わたしの心が幾度となくぐらついていた。

 今なら引き返すことができるのではないか。わたしはそう思うとこぶしを握る。

「成宮さんのお兄さんってどんな人か知っている?」

 わたしの体に影がかかると同時に、そんな言葉が耳に届く。その発言主は弘だ。

「どうしたの?」

 わたしはどきりとしながら、頬杖をついたまま彼に返事をした。

「いや、成宮さんにどんな人が好きかって聞いたら、お兄さんみたいな人って言われたから知っておこうと思ったんだよ」
「千春に告白したの?」

 途絶えてしまったわたしの初恋とは対照的に、弘と千春が一緒にいるのをたまに目にしていた。
 ただ、彼の思いが届くかといえば、よくわからなかった。
 わたしの問いかけに弘が焦りを露わにする。

「好みのタイプを聞いただけだけだよ」
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