さよなら、もう一人のわたし
 尚志さんがわたしの肩をぽんと叩く。

「それなら今日、その分楽しまないとな。最初の記憶が最悪になったら悪いよな」
「そんなことないです。楽しいですよ」

 尚志さんと一緒にいられるだけで楽しいからだ。
 今までほかの誰かと一緒にいて、そう思うことは一度もなかった。
 ふと千春の言っていた人を好きになったことがないだろうといっていた言葉が頭を過ぎる。

 あのとき、そうだと認めた。でも、今は即答できない。
 わたしはこの人のことが好きなのかもしれないと思ったためだ。
 いつからかは分からない。だが、彼と過ごした決して長くはない時間が、わたしの今の気持ちを作り上げていったのだ。

 彼はわたしの気持ちに気づいていないのだろう。
 不思議そうな顔をしていた。

「何か希望はある? いい思い出を作るための」

 尚志さんはわたしの顔を覗き込む。
 その顔にドキッとして、心持ち後退していた。
 わたしはその答えを探すために辺りを見渡した。

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