さよなら、もう一人のわたし
 風が次第に冷たくなっていく。

 尚志さんとはたまに会ったりしている。千春とは付き合っているんじゃないかとも言われたが、実際そんな話になったことは一度もない。
 彼がわたしを妹の友達としてみているのは分かっていたのだ。

 映画の話もあれ以降は聞かなかった。あれから千春もその話題に触れることもなかったのでわたしも触れなかった。
 ダメだったから何も言わないのだと結論付けていた。


 宿題を終え、お風呂に入ろうとしたとき、わたしの電話が鳴った。発信者は千春だ。

「京香を使うって」

 電話をとったわたしの耳に、千春は弾んだ声が届いた。
 わたしは状況が理解できずに、すぐに言葉が出てこなかったのだ。

「だから、京香があの映画に出られるの」

 わたしはただ千春の言葉に戸惑うだけで、理解できていなかった。

「あとはお母さんに話をしないとね。許可を得ておかないといけないし。後は伯父に会わないといけないと思うけど大丈夫?」

 母親から許可をもらえるかどうか心配しているのだろうか。

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