さよなら、もう一人のわたし

「一度会って話を聞いてほしいの。それでダメなら断る。お母さんが好きだった映画あるでしょう。果歩って映画」
「果歩……?」

 母親は眉間にしわを寄せてわたしを見た。

「もしかしてその監督って」
「成宮、なんて言ったかな」
「成宮秀樹」

 抑揚のない声だった。

「そう! そんな感じだった。だからお母さんもその人に会って」

 母親の手がわたしの頬に触れる。
 洗ったばかりだからだろうか。帰ってきたばかりだからだろうか。
 彼女の手は冷え切っていた。

「京香が選んだなら私は反対しないわ。でも、その人の連絡先を教えてくれる? あなたと一緒に会う前に話をしておきたいから」

 彼女は唇を噛み締めていた。
 わたしはどうして母親がそんな表情をするのか分からなかった。
 わたしは千春から聞いておいた連絡先を母親に伝えた。
 千春に母親が先に連絡をすると教えておけばいいだろう。

「少しだけ返事をするのは待っていてくれる? できるだけ反対はしないから」

 わたしは彼女の言葉に頷いた。

< 99 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop