火恋 ~ひれん~
 アイザワさんが美味しいと言ったそのラーメン屋さんは、小さな屋台だった。
 公園通りの交差点の少し手前、赤い提灯と裸電球の灯りが暗がりに浮かび上がっている。

 こんな閑静な場所でお客さん来るのかしら。素朴な疑問が湧いてしまう。車の往来はあるけれど、足を止めて寄ってくれそうな通行人は見当たらない。
 
「・・・らっしゃい」

 のれんを手で別けアイザワさんが顔を覗かせると、リヤカーを改造して作ったカウンターの向こうから、年配の店主さんが愛想もなく迎える。丸イスが4つ並び、他にお客さんは無かった。

「ご無沙汰してます」

「・・・おう」

 目礼したのは彼。どうやら店主さんのほうが立場が上・・・という事らしい。

「ゆっくりしてけ」

 白髪頭の店主さんは手を動かしながら素っ気なく言い、アイザワさんに促されわたしもイスに腰掛ける。

「・・・屋台は初めてか」

 物珍しくてついあちこちを見回していたら彼に問われた。

「はい。ファミレスなんかは一人でも入りますけど・・・さすがにちょっと勇気が要りそうですね」

「そうかもな」

 12月の夜空の下。足許から冷たい空気がじわり染みて来る。けれど寒さより。こうして彼の隣りに居ることがとても鮮烈で。目の前に沸き立つ湯気を眺めながら気になっていたのは、やっぱり由里子さんとの関係だったり。

 出来上がりを待ちながら、今日の事なら訊いても差し障りが無いだろうと遠慮がちに尋ねる。

「・・・アイザワさんは、わたしがあのお客さんに尾けられているのをどこからご存知だったんですか」
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