火恋 ~ひれん~
 奴が店の近くで待ち伏せしてると報告があってな、と焼酎のお湯割りをグラスから一口。アイザワさんは続けた。

「俺も出張って様子を見ていた。案の定、あんたはアパートまで気付かず仕舞いで、・・・まあこっちも向こうが手を出すまで動けんしな。取り敢えずあんたが無事で何よりだった」

 もう一口、グラスを傾け。

「これでユリへの義理も立つ」

 やっと荷物を片付け終わったかのような事務的な響きに。どうしてか胸が抉られた気がした。 
 鈍い痛みが瞬時に広がる。だめ。止まって。違う。痛くない、だってほら今塞いでしまうわ。自分で。

 そうよ、このひとは由里子さんの為にわたしを助けてくれただけ。
 呪文をかける。
 少し怖い思いをして心細くなっているだけ。頼るひとはいない、わたしは一人で生きていかなくちゃ。
 これまでも。これからも。

「・・・もう二度とアイザワさんにご迷惑をかけないよう気を付けますね」

 ちゃんと笑って見せてから、店主さんが置いてくれたシンプルな中華そばにそっと箸をつけたのだった。 
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