火恋 ~ひれん~
 クリスマス当日までセルドォルは例年通りの賑わいを見せ。
 一番人気だったのはサンタクロースやツリー、雪だるまの卓上ミニランプ。通販だとスノードームが不動の人気だそうで、野乃ちゃんは発送の手配にかかりきりでいた。
 
『お疲れさまでした!』

 閉店後、毎年恒例のセール打ち上げを兼ねたクリスマス会を海鳴り亭で。
メンバーは、もちろん彼氏優先の果歩ちゃんを除いた三人。“恋人は特に希望していない組”のわたしと野乃ちゃん、牧野君。由里子さんはいつもどこかのパーティに招待されるそうで欠席が恒例だった。

 隅の四人がけテーブルがセルドォルのリザーブ席。一人3千円の予算で料理はマスターにお任せしている。時間通り8時にお邪魔するともう、幾つか料理が並んでいた。金曜日という事もあってか店内は満席だった。
 どちらかと言えば淡々とお喋りをするメンバーの集まりではあるけれど、それぞれのペースでそれなりに楽しむ。
 しばらくして牧野君がさらりとわたしに質問をする。

「・・・織江さん、あれから大丈夫すか、アパート」

 あの夜の事だ。

「うん・・・大丈夫。警察も時々見回りしてくれててポストにね、ちゃんと報告カード入れてくれるの。異常ありません、て」

「でもそんなのは、あんまり充てになんないスよね」

 癖っ毛の髪をくしゃっとしながら、彼はもう片手でビールを流し込む。

「・・・俺。帰り送りますよ、方向一緒だし。やっぱ危ないス」 

「大丈夫よ、近いし」

「それ全然、説得力ないスよ」

 思い切り言葉に詰まる。

 ・・・正直なところ。あれから夜道が怖くなってしまって、走りづらいヒールの靴は履けなくなった。
 たった10分の距離が果てしない長さに感じる。何度も後ろを振り返って、誰も居ないのを確認しないと息が止まりそうになる。誰かの気配を感じたら咄嗟に駆け出してしまう。トラウマになっているのは事実だった。

「今日から送りますんで」

 表情も変えずに言われて、でも嬉しくもあった。
 いつもさり気なく果歩ちゃんや野乃ちゃんを助けてるのも知っている。
 人付き合いは嫌いだと云いながらも、わたし達のことは仲間と認めてくれている。多分それが嬉しかった。

「・・・じゃあお言葉に甘えさせてもらってもいい?」

「了解ス」

 すると野乃ちゃんが、

「織江さんはなんでも頑張りすぎです」

 ぼそっと会話に雑ざる。
 もっと他人を頼れ。・・・と云われた気がした。 


 それはわたしに一番、・・・縁遠いこと。
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