火恋 ~ひれん~
「お茶、そっちに持っていきますね」

 仲居さんが退室してから、茶托ごと湯飲み茶碗を渉さんの前の丸テーブルに置く。お茶受けの和菓子は食べないだろうから、そのままで。

「何だ? 織江もここでいいだろう」

 座卓に戻ろうとして、訝しげな顔で云われる。

「じゃあわたしのも持ってきます」

 渉さんの向かいに座って。いい香りの煎茶をゆっくり味わう。
 彼が寛いでいる時は邪魔をしない、といういつもの癖で。渉さんの許しがあれば傍に来ようかと思っていた。どうやら今日はルールが少し違うよう。

「・・・お前が主役なんだがな」

 小さく溜め息雑じりに、困ったような笑みを掠めてわたしを見る。

「折角だから、藤とホテルの中でも探検して来い。その後でさっきの仲居が云ってたろう、少し外でも歩くか」

 今度は淡い笑み。
 渉さんは腕時計に目をやった。

「・・・4時半過ぎか。5時半までには戻れよ。今、藤を呼んでやる」

 スマートフォンで呼び出しの電話を掛け、同じ階の別の二人部屋だという藤君は、ものの3分と経たない内にやって来たのだった。
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