火恋 ~ひれん~
「・・・・・・何? ホテルの探検て」

 レッドカーペット敷きの廊下を歩きながら藤君は、呆れを通り越して小馬鹿にしたような冷たい横目を向けた。

「子供か、あんたは」

 言い出したのは渉さんです。
 相変わらず塩対応な藤君にも慣れてきていて、笑顔で切り返す。

「付き合わせてごめんね藤君。こういうホテル初めてだから、ちょっとワクワクしちゃって」

「別に・・・若頭代理に頼まれたんだから、行くけどさ」

 はあ、と思いっきり面倒臭そうな溜め息を吐き、「じゃあ取りあえず、売店とか?」と彼はエレベーターのボタンを押した。
 勝手に見て来るからロビーで待ってて、と言ったのに、その辺は律義で。藤君は黙って後ろからついて歩く。曰く、

「結城を一人にしとくとか、殺されろって言ってんの?」

 だそうだけれど。


 
 感動だったのは。お土産品が広い売り場に集まっているのでなく、工芸品や雑貨、お菓子や特産品などの種類に別れて町家風の小さなお店が並んでいたこと。通路も石畳で、お店と通路の間に丸石を敷き詰め、飛び石を置いて水路仕立てにしてある凝り様だった。
 「この並べ方、可愛い」とか、「これ使えるかな」とか、仕事目線で独り言を呟くわたしを藤君は最後まで、限りなく冷めた目で見守ってくれていた。 

「ねぇ藤君、庭も見て来ていい?」

 ガラス張りのロビーの向こう側は日本庭園が広がっていて、泊り客が散歩している姿を見かけた。

「そんな薄着で行ったら風邪引くって」

 山あいだから夕方ともなれば、気温もかなり下がっているだろう。

「いい、コート取って来てやるよ」

「あっ、藤君、駄目・・・っ」 

 行きかけた彼の二の腕を思わず掴んで引き留めた。
 怪訝・・・というより射すような眼差しを向け藤君は、「・・・何で?」と低く問い質す。

「渉さん、仕事中だと思うから。行かなくていいわ」

「・・・・・・・・・」

 わたしの答えに彼は眉だけで反応をし、間を置いて「ふぅん・・・」と小さく鼻を鳴らした。 

「それほど馬鹿じゃないんだね、あんた」
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