火恋 ~ひれん~
「一応訊いとく。何でそう思ったの」

 藤君は、腕からわたしの手を外して無表情に言った。
 簡単な理由だわ。だって。

「いくら藤君がわたしのお守り役って言っても、二人で行かせるなんて無いもの」 

 いつもの渉さんだったら。限りあるわたし達の時間を、たとえ一時間でも他人に譲ったりしない。わたしをあの場から遠ざけたい余程の事情・・・と言うなら、“仕事”以外は考えられないだけ。
 それに。

「何となく、・・・違うのが判ったし」

 曖昧に笑んで見せた。

 わたしだけを見ている時とそうではない時、彼の空気は緩み方が違う。寛いでいるようでも、どこか一本、細く張った糸を残しているような。
 わたしを部屋から送り出した時の彼には、その気配があった。だからと言って。渉さんがわたしをおざなりにしているなんて、死んでも思わない。わたしは何も気付いていない。彼が隠したのでもない。藤君とホテル探検をしてただけ。

「何となく・・・ねぇ」

 キツネ顔の藤君が目を細めると、シャープさが増して、見かけ通りの普通の男の子じゃないのをあらためて知る。
 
「堅気のクセに、聞き分けのいいフリして若頭代理に取り入っただけの、相当小賢しいクソ女とか思ってたけど。・・・まあまあマシなんだな」

 ・・・・・・何か今、とてつもない罵詈雑言を浴びた気が・・・。
 思わず目を丸くして藤君を凝視してしまう。ああ、いつもこんな風に思われていたのね・・・・・・。逆に、潔く首を落とされたぐらいにすっきり受け入れられたというか。
 すると藤君は、少し意地が悪そうに口角を上げたしたり顔で。

「だから褒めてんだよ。あんたみたいな女のどこがいいのかと思ってたんだけどさぁ。・・・まぁ前ほどキライじゃなくなった」

 えぇと。

「あ・・・有りがと、う・・・?」

 ここはお礼を言うところなのかと一瞬悩み。
 良く分からないけれど、どうやら彼に及第点が貰えたのだとジワジワ嬉しさが込み上げて来た。

「良かった。藤君と仲良くなれて」

 満面の笑顔を向けたら、思い切り嫌そうな表情をされる。

「誰が仲良くだ、調子に乗んな。・・・ってか、誰もあんたのお守りなんかしてねーよ、ざけんな」

 前よりも口は悪いけど、ちょっと距離感が詰まったみたい。
 照れてるの、藤君?
 なんて言ったら多分、口も利いてくれなくなっちゃうんでしょうね。
 ね、渉さん。  
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