火恋 ~ひれん~
「あー・・・結城、そろそろ戻るよ。多分もう終わってる」

 口振りから、藤君も“仕事”の概要は把握していたようだった。

「うん」

 エレベーターホールの方に向かおうとして、くぐもった着信音が。藤君がダメージジーンズの後ろポケットに手を伸ばす。

「・・・はい」

 通話しながらわたしに視線を送って来たから、相手は恐らく渉さん。わかりました、と終わってから小さく肩を竦めて言った。

「このままロビーで待ってろってさ。あんたのコートも持って来るって」

 腕時計をちらと見やる。針は5時22分過ぎを指していた。
 渉さんが自身で動かざるを得ない状況なら、ここにわたしを残しても行くだろうし。何も告げないなら、わたしは彼との時間を心置きなく過ごせばいい。



 やがてコート姿の渉さんがこちらに向かって歩いて来るのが目に入って、小走りで駆け寄る。

「渉さん・・・っ」

「ほら、寒いから着ろ」

 お気に入りのアイスブルー色のダウンコートを手渡され、お礼を言う。

「どうだった。見て回ったんだろう?」

「造りが凝ってて、ホテルの中なのに街を歩いてるみたいでした」

 お土産屋さんが可愛くて、と、もう少しで職業病を発揮しそうになったのをクスリと笑われた。
 あ。・・・いつもの渉さん。空気がちゃんと緩んでる。

「織江が気に入ったならいい」

 このひとは。自分のその淡い微笑みがどれほど、わたしの心拍数を上げてしまうかを知って欲しい。どれだけ愛おしさで胸が弾けそうになってしまうのか、・・・も。
 
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