火恋 ~ひれん~
 とても情緒ある街並みを、渉さんはわたしと繋いでいる手を自分のコートの片ポケットに収めて歩く。指を握り合うそこだけ、別世界のような熱を熟んでいる。
 風は無いけれど、有るがままの自然が発するこの冷ややかさは、自分達が暮らす街とは全然違う。清(すが)しいとさえ感じる。
 すっかり陽は落ち、川沿いに並び立つぼんぼりのような街灯がやんわりと辺りを浮かび上がらせる。お店の電光看板も行灯風に統一されていて、本当に時代を遡ったよう。

「・・・確かに好い眺めだな」

「わたしこういう和の雰囲気、すごく好きです。困っちゃうくらい素敵!」

「そうか」

 入りたい店があったら遠慮するな、と彼は終始、穏やかな笑みを滲ませた。

 石柵で車道と隔てられた遊歩道は、年配の夫婦や子供を連れた家族、女子数人のグループや自分達と同世代くらいのカップルなど、それなりの人で賑わっていた。
 誰もがこの旅行を楽しんでいるようで笑顔が絶えない。傍(はた)から見ていても、わたしまで気持ちがふんわりする。

 目に付いた一軒の工芸品店で、綺麗な色の石がはまったチャームを見つけお土産にしたのはセルドォルの三人分だけ。やっぱり由里子さんにはスイーツが最強だから。
 
「何だお前・・・自分のは買わなかったのか」

 渉さんに云われて、えぇと、と少しだけ言葉を濁す。

「実はホテルのお土産屋さんで気に入ったのがあって。それを買って帰ろうかなって・・・」

 どこか誤魔化し気味になったのは。すでに購入済で宅配便も手配したのを報告し辛かったから。何を、と訊かれるのが一番困るからだった。

 実はさっき藤君とホテルのお土産を見て回った時、1対の陶器の麦酒杯と目が合ってしまった。素朴な焼き色と荒い手触りが、どことなく渉さんぽい・・・と思ったらどうしても欲しくなって。色違いでお揃いなんて地味に厭がられるかも知れないし正直、落ち着かない気持ちでいっぱい。
 渉さんはそんなわたしを特に気にする様子もなく。向きを変えて歩き出す。

「そろそろ戻るか。躰冷やすぞ」 

 
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