火恋 ~ひれん~
 昨晩は。お部屋の露天風呂でかけ流しの温泉に浸かりながら、声を殺して躰を繋げ。知らないシーツの匂いと肌触りを感じながら、いつもより容赦のない抱き方をされた。
 まるで。声にはならないものを全部、わたしの中に吐き出そうとするかのように。自由を奪われて荒々しく支配された。お前は俺のものだ、と何度も躰の奥にその熱を放たれて。刻まれた。
 言葉は無くとも。確かに在るもの。貴方の想いは。
 ここに。・・・わたしに。




 慣れない布団だったからか、浴衣姿の渉さんの腕の中でまだ薄明るい夜明けに目が覚めた。
 疲れが無い訳じゃないけれど冴えてしまって、そっと布団を抜け出す。彼の眠りは珍しく深かった。疲労回復の温泉効果は、抜群かも知れない。
 出来るだけ音を立てないように慎重に。浴衣に半纏を羽織り、バスタオルだけを手に露天風呂へ。

 東屋風に屋根のある岩風呂は定員二名といったところで、誰にも邪魔されずに好きなだけ愉しめるのがやっぱり醍醐味だろうと思う。朝の空気は実は冷凍庫かってぐらいヒンヤリで、首から上だけ風邪引くんじゃないかって、ちょっと後悔したりもして。
 目隠しの竹垣に遮られ、見えるのはほんの少しの空。朝陽に染まって綺麗に明けてきたようだ。
 そろそろ戻らないと渉さん、起きちゃいそう。
 と思ったら。
 案の定、部屋と続くドアがガチャリと音を立てて、わたしは慌ててそっちを向く。

「・・・どうせなら俺も起こして行けばいいだろう」

 傍まで来て、まだ少し眠そうな且つ不満そうな目で上から睨め付けると、渉さんも浴衣の帯を解き、しぶきを立てて勢いよくお湯に浸かる。

「よく寝てたみたいだから悪いかと思って・・・」

 じろり、と空気より冷たい横目でまた睨まれた。言葉に変換したら多分『そんな遠慮は要らん』・・・かしら。

「俺を一人にするとはいい度胸だな、織江?」

 腕を引っ張られて彼に掴まえられる。

「ここで啼くか部屋に戻って啼くか、どっちだ。選ばせてやる」

 背中から抱きすくめられていて表情が見えない。感情の籠らない声は本気の証。わたしの躰は無意識にピクリと震えた。

「・・・・・・部屋で啼かせてください」  

 小さな声でやっと。

「・・・いい子だ」

 不敵に響いた低い声音。



 何となく。渉さんが我が儘になった気がする。
 我が儘を赦せと・・・甘えられた気配に。なんとなく。
 ・・・嬉しいような、困ったような。
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