火恋 ~ひれん~
 ふざけないで下さい、とわたしは低く呻いた。

「・・・何が間違いなんです? 両親と同じ事を言うんですね。間違いで結婚したからもう止める、今日から赤の他人だから勝手に生きろって。成人(おとな)になったんだから、独りで生きろって。間違いだと気付いたから、自分達が正しいとでも言うつもりですか。間違いだから、何を否定しても構わないと思ってるんですか。全部を無かった事にされる、わたしの気持ちなんて考えもしないんですね」

 今まで誰にも話した事もない家族の事までぶちまけて、渉さんを責めていた。

 涙も出なかった。心がまるで鋼(はがね)と化したように、重く冷たい塊になった。
 目の前のこのひとに、何を解らせたいとも思っていなかった。ただもう。
 絶対に退く気がないのを思い知らせたい、それだけだった。

「わたしは、渉さんがやくざだって知ってて好きになったんです。確かに普通とは違うんだろうし、わたしは何も知らない。覚悟だって甘いのかも知れない。でもそんなのは、わたしの責任です。渉さんが負うことじゃない。死んでも離れませんから、どうしてもって言うなら、渉さんがここでわたしを殺せばいい」

 まるで敵(かたき)と相対しているかのように。一瞬も目を逸らさず、射るように彼を見据えてわたしは言い放った。
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