青藍のかけら

「ケイ、千鶴口説くなってば。サービスしてくれるんじゃなかったの?」

私が微妙に眉根を寄せていることを察してか、絶妙なタイミングで千尋が圭祐の口説きにストップをかける。

「はいはい。特別に一番高いコースを割引してやるよ。美人に会わせてくれたしね。店長には黙っとけよ?」

「千鶴口説くのやめたらね」

「こわ。じゃあ美人を口説くのはまた次の機会にするよ。じゃあまた後でね、千鶴ちゃん」

ひらりと片手を振って厨房に戻っていく圭祐を見送ると、小さい溜息が聞こえた。

「だからあんまり千鶴を会わせたくなかったんだよね…」
「なんか……嵐みたいな人だね」

軽そうだね、という言葉を咄嗟に呑み込んで、二番目の感想を口にする。
一応先輩にあたるらしい人に…それ以前に、千尋の友達らしい人に悪くは言いたくない。

「あー千鶴の言いたいことはわかるよ。軽そうでしょ、てかまぁ…軽いんだけど。でもすっごいいい人だよ。だからあれで友達多いんだよね。女癖の悪さ直したら言うこと無いんだけどね」

「ふぅん」

まぁ軽そうだったのは否定できないけど、初対面の人に対して必要以上にべたべたしたりとかの非常識さもなかったし、程よい距離感を保っていた。

でも、…なんか、違和感。
なんでだろう?

「千鶴?」
「あ、ううん。…わ、おいしそう」

ぼーっとしてる間にいつのまにか運ばれてきたらしい料理は本当においしそうで。

「食べよ?」
「うん、いただきます」

千尋との楽しいご飯に夢中で、このときはもう圭祐に対する疑問も忘れてしまっていたんだ。




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