リアルな恋は落ち着かない
まりんちゃんは、軽い足取りで階段を下りてくると、初めて私に気づいたように、「あっ」と小さな声をあげた。

「すみません、お取り込み中でしたか?」

「あ・・・いえ・・・」

「そうですか?じゃあすみませーん、五十嵐さん借りて行きますね」

そう言って、まりんちゃんは五十嵐くんの腕に自分の腕をすっと絡めた。

「!」

躊躇もなくした行動に、私の胸は突かれたようにぎゅっと鋭い痛みが走った。

そのまま歩き出そうとしたまりんちゃん。

けれど五十嵐くんは動かずに、彼女を制するように言う。

「申し訳ないけど、オレは話したいことが残っているから。終わったら行くので、開発部で待っててもらえますか」 

言いながら、五十嵐くんはまりんちゃんの腕をやんわりほどいた。

解かれた腕を、まりんちゃんは、息をのむように大きな瞳で見つめている。

プライドが傷ついたのか、怒りに震えるような顔。

私の背中に、ヒヤリと冷たい汗が流れた。

「・・・っ」

一瞬だけ、彼女は私に鋭い目線を向けてきた。

けれどすぐにアイドルスマイルを作って、五十嵐くんのことを見た。

「そうですか・・・。でも、私怒られちゃいます。中尾さん怖いから・・・一緒に来てほしいんです。お願いします」

最後は目を潤ませて、上目づかいで彼を見上げるまりんちゃん。

自分の中のエマージェンシーランプが、激しく点滅して私に危険を知らせてる。

「本当に、悪いけど」とまりんちゃんに断りをいれようとした彼を、私は咄嗟に止めてしまった。

「あの・・・また、今度にしよう。中尾さん、急いでいるのかもしれない」

そう言って、私はくるりと背中を向けて、勢いよく階段を下へ下へと降りて行く。

「あっ・・・、橘内さんっ・・・!」

すぐに、呼び止めるような五十嵐くんの声が聞こえたけれど、私はそれに気づかないふりをした。









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