リアルな恋は落ち着かない
残業を終え、会社の受付を通り過ぎたのは22時のことだった。

家に着くのは、23時近くになるだろう。

社員証をエントランスにかざし、会社の外へ出てみると、部屋の中ではわからなかった、雨がザーザー降っていた。


(うわ・・・気づかなかったな。結構降ってるのに)


カバンの中をゴソゴソ探すが、折り畳み傘は入っていない。

普段、ロッカーの中に入れている置き傘も、以前の雨の日に持ち帰ったままだと今になって思い出す。


(そうだ家に置きっぱなしだ・・・今日はカーディガンも忘れてるし・・・。仕方ない、もう、走って帰ろう)


意を決して、屋根の外に飛び出した。

パシャパシャと音を立て、水たまりに注意しながら急ぎ足で歩道を進む。 

すると、10mほど行ったところで、突然、頭上の雨が私をよけた。


(・・・?)


真上には大きな黒い傘。

驚いて、立ち止まってから振り向いた。

「・・・!」


(五十嵐くん・・・!)


すぐ後ろには、その傘の主である五十嵐くんが立っていた。

大きく息をのんだ私に、彼の低い声がした。

「家まで送ります」

「え、あ、だ、大丈夫。うち、近いし」

驚いて、動揺して、かなり口ごもってしまった。

咄嗟にそんな言葉しか、私は口にできなかったから。
< 177 / 314 >

この作品をシェア

pagetop