リアルな恋は落ち着かない
「いや・・・雨だし。どうせ同じ方向なので」

「でも、大丈夫だよ。五十嵐くん濡れちゃうから、ど、どうぞ」

彼の傘は、ほとんど私に向けられていた。

その傘の柄を押して、彼の方へと傾ける。

けれどすぐに、五十嵐くんは私の方へと戻してしまった。

「オレは平気なので。二人が嫌ならオレが走ります。橘内さん使ってください」

「え、や、そんなの困るよ」

「・・・橘内さんが濡れると困るし」

「わ、私も、逆に困る」

「・・・じゃあ、申し訳ないけど。一緒に入って行ってください」

「でも」


(困る・・・)


これはまさしく、相合傘ではないだろうか。

そんなシチュエーションに耐えられなくて、私は拒否を続けるけれど。

「・・・すごい濡れてるし。もう、話してる間に歩きましょう」

見ると、濡れたブラウスが腕に張り付いていた。

けれどそれは私だけのことじゃなく、五十嵐くんのスーツも私以上に濡れていた。

「・・・うん・・・」

彼のことを考えても、言い合う間に歩き出すのが賢明だった。

私が頷くと、それを合図に二人で一緒に歩き出す。


(どうしよう・・・緊張する・・・)


傘を私に向ける彼の腕と、時々肩がぶつかった。

そのたびに、心臓が大きく跳ね上がり、平常心ではいられなかった。

どしゃぶりまではいかないけれど、雨音は、耳にうるさいくらいに響いている。

けれど、その音にでも耳を傾けていないと、落ち着いてはいられなかった。








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