リアルな恋は落ち着かない
(うん。今日はちょっと早いかも)


会社の最寄り駅、関内駅の改札を出ると、その風景がいつもとちょっと違って見えた。

腕時計を確認すると、普段の到着時間より、15分ほど早かった。


(そうだ・・・。日ノ出町駅で、いつも乗る電車の一本前に乗れたんだよね)


乗り換えも上手くいったから、結構早く会社に着きそう。

会社に続く大通り。

天気もいいし、清々しい気持ちで舗装された歩道を歩く。

めずらしく人通りが少ないのも、気分のよさに拍車をかけているようだった。


(たまにはいいな。これからは、時々早く来ようかな)


明るい気持ちで歩いていると、あっという間に会社まであともうちょっとの距離になる。

そんな横断歩道の一歩前。

車が来ないか左右を確認していると、後ろから、「橘内さん」と突然声をかけられた。


(・・・ん?)


振り返った私は、声の主を見て瞬時に背筋が凍りつく。

「・・・!」

「ちょっと、いいですか?」

私に笑顔を向けているのは、キャップをかぶり、眼鏡にマスク姿の変装をしたまりんちゃん。

遠目ならきっとわからないけど、この近距離で、声を聞いたら彼女以外の何者でもない。


(なんで・・・)


もう二度と会わないと思っていた、会いたくなかった人だった。

私は立ち止まったまま、身構えるように彼女のことを見てしまう。
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