リアルな恋は落ち着かない
「うん・・・ごめんね。もう大丈夫だから」

「いえ・・・。オレは何もしてないし、謝られるとつらいけど」

そう言うと、彼は一度目を伏せて、ベッドサイドのグレーの椅子に腰かけた。

そしてしばしの沈黙の後、言いにくそうに話を続けた。

「・・・今まで、課長が一人でいたんですよね」

「うん・・・」

「・・・その・・・手え出されたり、口説かれたりとかしてないですか」

「えっ」

怒ったような顔をして、私を見下ろす五十嵐くん。

その表情に、ちょっとドキッとしてしまう。


(・・・どうしよう・・・。微妙なとこだけど、『もう口説いたりしない』って言ってたし・・・)


さきほどの、ピリピリとした雰囲気の、二人のことを思い出す。

少しでも誤解を生みそうなことは、言わないほうがよさそうだ。

「うん・・・してないよ」

「・・・本当に?前例もあるし・・・さっきの『熱測ってた』って言うのも、明らかに怪しかったけど」


(・・・ドキ・・・)


見下ろされる視線に、私は思わず目をそらす。

全てを見抜かれているようで、気持ちが落ち着かなくなった。

「本当に、熱ですか」

「・・・うん・・・多分・・・」

「・・・多分って・・・。口実だろ、あのオヤジ・・・」

唸るように、低い声を出す五十嵐くん。

その視線は、ここから去った阿部課長を睨みつけているようだった。
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