リアルな恋は落ち着かない
「・・・橘内さん、こっち」

そう言って、突然、五十嵐くんに肩を抱かれた。

驚いて、胸を鳴らして見上げると、彼は私を引き寄せて、身体の向きを変えさせた。

「ここ、曲がりましょうか。大通りのほうが行きやすいから」

「う、うん・・・っ」

私に触れた大きな手。

一瞬で、その手は離れてしまったけれど、私の胸は、ドキドキとして仕方なくなってしまった。

火照る頬。

心臓はうるさいくらい鳴り響くのに、もう一度触れてほしいって、心の中で願いだす。


(手をつなぐとか・・・)


深い関係はまだ怖いのに、触れられる甘い感覚は、自分でも驚くほど求めてしまうようだった。

もしかしたら、恋人同士の距離というのは、こうやって徐々に縮まっていくのかもしれない。

そんなことを思っていると、数歩先に行ったところで、彼がピタリと立ち止まる。

合わせて私も横に並ぶと、見下ろす彼と目が合った。

「・・・もし、よければ」

「えっ」

少しだけ照れた顔で、彼が右手を差し出した。

五十嵐くんは、魔法使いなのかもしれない。

願っていた私の想いを、いとも簡単に叶えようとしてくれた。

「・・・うん」

差し出された彼の手に、左の手をそっと重ねる。

すると、すぐに大きな指に包まれて、その温もりは私をとても幸せにした。









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