リアルな恋は落ち着かない
「・・・ああ、そうだ」

海の気配を感じてきた頃、五十嵐くんが呟いた。

私は、左隣の彼を見上げる。

「昨日会社に行ったら、部長と課長も来てたんですけど」

「うん」

昨日、休日出勤だった五十嵐くん。

それは、金曜日に行った出張の報告書作成のためだった。

普段なら、月曜でいいと言われることが多いけど、今回は土曜のうちに仕上げるように、上から言われたそうだった。

「覚悟は一応してたけど。めちゃくちゃ責められました。橘内さんを独り占めするとは何事かって。・・・コスプレ王子とか呼ばれたし」

「ええっ!?」


(コスプレ王子・・・)


「袴王子とも呼ばれたな・・・。多分、あの人たちしばらく呼び続けると思います」

「そ、そっか・・・」


(なんか、申し訳ない・・・)


「あの、ごめんね」

「え?ああ・・・別に、橘内さんのせいじゃないですよ。袴着て行ったのは、オレがしたくてしたんだし。

・・・って、もちろん、コスプレしたかったって意味じゃないけど」

念押しのように彼が言う。

私は笑って頷いた。

「うん、わかるよ」

「・・・ならいいけど・・・。部長たちわかってるかな。

あの日は特別・・・二度とする気はないし、趣味とか思われたら本気で困る」


(・・・二度としないのか・・・)
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