リアルな恋は落ち着かない
「・・・それ、ちゃんとわかって言ってる?」

「うん・・・」

「何もしないとか、確実に無理だと思うけど」

「・・・うん」

やっぱりきっと、お酒のせいだ。

心の準備なんて、普段の私にはいつできるかなんてわからない。

だけど今、もっと一緒にいたいって、自然と気持ちがわいたから。

勢いってやつかもしれない。

けれどこのまま距離を縮めていけたなら、それでもういいと思った。

「・・・わかった。じゃあ、もう帰さない」

耳のそばで、彼の低い声がした。

私が頷く。

それを合図に、二人でマンションを背に歩き出そうとした・・・その瞬間。

「・・・」

真横を通り過ぎようとする、不審な影に気がついた。

顔をビジネスバッグで隠しながら、壁伝いにカニ歩きをしている明らかに不審な人物。
 
本人は目立たないようにしているつもりのようだけど、怪しい以外のナニモノでもなく、否が応でもでも目に入る。


(う・・・これは多分・・・)


「お、お兄ちゃん・・・」

呟かずにはいられなかった。

柊吾は「えっ!」と驚いて、私の肩から手を離す。

「う、あ、よ、よう!優里菜っ!」

思いっきり身体をびくつかせ、お兄ちゃんはビジネスバッグを少しだけ横にずらした。

顔はちらりと見えたけど、私とは目を合わせない。

「・・・っ、あの」

柊吾は、挨拶しようと思ったのだろう、お兄ちゃんの前に進み出て、頭を下げてくれたけど。
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