リアルな恋は落ち着かない
「奥さんですか」

「あ、ああ・・そうだ。いや、最近ちょっと何か疑われているみたいでね。しょっちゅうかかってくるんだよ」

「・・・そうですか。まあ、賢明だと思いますけど」

「え?」

「いえ・・・。じゃあ、橘内さんはオレが送っていきますよ。宗田さんに聞いてみます」

「い、いや、しかし・・・」

「課長の名前は出しません。それに、ちゃんと送りますから。後で宗田さんに聞いてもいいし、覚えてなさそうだけど・・・本人にでも確認してください」

「・・・」

「早く帰ったほうがいいんじゃないですか。奥さん、家で待ってるんですよね」

「・・・」

しばしの沈黙。

考えるような間をおいてから、課長は渋々のように「わかった」と言って頷いた。

「じゃあ・・・そうするけど。くれぐれも、橘内さんをどこかに連れ込もうとか考えるなよ」

「は?・・・考えませんよ、そんなこと」

「くれぐれもだぞ。じゃあ、頼むけど」

「はい。おつかれさまでした」

どこか後ろ髪をひかれているような表情で、課長がその場を去って行く。

五十嵐くんはその姿を見送ってから、大きいため息をついて私をずるずる引っ張った。

「橘内さん、わかりますか」

「ん・・・」

近くにあったベンチの上。

五十嵐くんは、私の身体を自分に寄りかからせるように座らせて、私の肩をぽんぽんたたいた。
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