好きだと言えたら[短篇]



ちょうどいいタイミングでビールが目の前に置かれる。


「そうね、まずは素直になってみなさい」

「それが、難しいんですよ」


そう。
俺だって何度も試みた。
でも、出来なかった。


照れてる自分を見せたくなかった。格好悪いし。常に、冷静で格好良い自分を演じていることが当たり前になった。



「…女の子はね、すぐ不安になるの」

「…。」

「たった一言で嬉しくなったり、悲しくなったり。」

「…。」


ゴクゴクと
ビールで喉を潤す。


「電話の相手だって、橋上君の勘違いかもしれないじゃない。…それを素直に聞いてみることも大切なんじゃない?」

「…はい。」



もともと酒に弱い俺。
すぐに酔いが回る。


「良い?…格好悪くたって良いの。素直な気持ちを彼女さんにぶつけて見る。それで見方が全然変わってくる事だってあるんだから。」


「…は、い。」



朱実、
まだ、まだ間に合うか?

格好悪い俺でも、良い?




「さ、早く帰りましょ。…彼女さんのためにも。」

「?」



最後の方が上手く聞き取れなかった。
そうとう酒がきているのかもしれない。



軽く方を支えられながら
自分のマンションへと向う。









…もう、
もう、俺の決意が遅かったということも気付かずに。













「ほら、ちゃんと歩いて!」

「す、すいません」

「もうっ!橋上君弱すぎよ…」




耳元で聞こえる
小百合さんの声が頭に響く。





やっとのことで
自分のマンションが見えてきた。



「疲れた。」

「本当、すいませんでした」



はぁっと小百合さんが
溜息を吐いたその時。






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