好きだと言えたら[短篇]
「…あら。」
肩から手が離れたと同時に、小百合さんの声。
俺は視線を同じ方向へと向ける。
「あ、けみ?」
少し離れた所に
朱実はいた。…目を真っ赤に涙を流した、朱実が。
何で泣いてる?
「…あちゃ、ヤバイわね」
「え?」
小百合さんの顔が歪んだ。
ぽろぽろと涙を流す朱実。その顔から視線を逸らすことが出来なかった。まっすぐにまっすぐにただ朱実を、見つめた。
「…~」
小さく何かを呟いた朱実は
涙を服の裾でグイグイと拭う。
…あぁ、そんなに強くしたら
朱実の肌が更に赤さを増す。
そして一歩一歩
俺らの方へと歩き始めた。
手を伸ばせば届く距離。
朱実は真っ直ぐ俺を見た後、小百合さんの方へと体を向ける。
…朱実?
「朱実ちゃん?私、哲平の…」
「はじめまして。」
小百合さんの言葉を遮った朱実は唖然としてる俺の前に座り込み真っ赤な目を俺に向けニコリと笑った。
そして
「哲平…バイバイ。」
そう言ったんだ。
………は?
バイバイ?
もう帰る、のか?
いや、違う。いくら馬鹿な俺でもこの"バイバイ"の意味は理解が出来た。
最後の挨拶だと。
「は!?…おい…」
俺の声は完全に無視された。
カラン。
そして目の前に何かが落とされた。
そう、俺の部屋の…鍵。