好きだと言えたら[短篇]
引き止める間もなく、朱実は俺に背を向けて走っていってしまった。
「何…」
何が起こった?
バイバイという言葉。そして返された鍵。
それが意味するものは
…そう、別れ。
「…橋上君。あの子勘違いしてる。」
「え…」
「私と、橋上君のこと。」
その一言で、全てを理解した。
朱実の涙。
「…っ」
「早く追いかけて!」
俺は走った。
縺れる足を何とか動かし、朱実の後を追った。
まだ伝えてない
まだ言葉にしてない
鮮明に写る朱実の泣き顔。
バイバイ、という言葉。
諦めることなんて出来るはずがない。
好きで、好きすぎて
どうしようもなくて。
格好良いってなんだよ
格好悪いってなんだ
俺は自分のことで精一杯で朱実のことを考えてやることが出来なかった。
こんな男、
最低なのかもしれない。
それでも
朱実を他の男に渡すなんて考えられなくて。俺以外の男の隣で笑う姿なんて想像できなくて。いや、したくなくて。
俺は必死で走った。
「何処、いんだよ…」