好きだと言えたら[短篇]



俺は最後の賭けに出た。
もう遅いかもしれない。

でも、伝えたいんだよ、俺の気持ち。




ゆっくりと
でも確実に朱実のもとへと向う。



「…。」





「…哲平。」

あと少し、そんな時、微かな小さな子でそう呟き、一歩俺から遠ざかった。目に涙を溜めて、俺から遠ざかった。

「…逃げんなよ。」

「…やっ…」


俺の顔を見ようともせず、
ひたすら下を向き俺を拒絶する。


朱実、朱実
なぁ、もう一度俺を見てくれよ

あの笑顔で
好きって、言ってくれよ…頼むから。





そう思ったその時。
一滴の涙が、朱実の目から流れた。



…っ


勝手に動いてた。
俺の体が。



そう、気づいたら朱美を抱きしめていたんだ。



少し震えているのは、朱美?それとも…俺?



「…っ」

今しかないと思った。
格好悪くてもいい。朱美がそばにいてくれるのなら。


俺はぎゅっと抱きしめる腕に力を入れるとゆっくりと口を開いた。


「え…」
と驚く朱美の言葉を無視して口を開いたんだ。





「…バイバイって何?」


「これは…どういう意味?」




ずっと握っていた小さな銀色の鍵が地面に小さな音を立てて落ちる。


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