好きだと言えたら[短篇]
「…なぁ。」
終わらせたくない。
この手を、体を離したくないんだよ…
ビクっと朱美の体が揺れた。
そして、言葉が紡がれる。
でも、それは俺が予想していた言葉とは全く違う言葉だった。またそれ以上に残酷な言葉だった。
「…哲平、もうバイバイしよ?」
朱実の体温。
温もり、全てが一瞬にして遠のいた。
そう、俺の胸をグイっと拒絶するかのように押し戻し、こう言ったのだ。
「…もう、好きでもない子にこんなことしちゃ駄目だからね?…ちゃんと、心から好きって思える子にしてあげてね。」
俺でも分かる、無理に作られた笑顔で見上げる朱実の目にはまだたくさんの涙が溜まっていた。
暗い夜道。
少し肌寒い温度。
…好きでもない子?
心から好きって思える子?
何、言ってんだよ。
俺と、朱実との間に開いた少しの空間。
まだ俺の胸に添えられている朱実の手。
俺は…
お前が好きだ。
「…意味、分かんねぇこと言うなよ。」
「ちょ、ちょっとっ」
ふわっと香る朱実の香り。
俺は再度、朱実の俺を制する手を無視して強く抱きしめた。
今じゃなきゃ
駄目な気がして。
今じゃなきゃ
朱実が本当にいなくなる
そう思ったんだ。
コホコホと
苦しそうに咽る朱実を無視して力強く、離すまいと抱きしめる。
「いなくなんなよ。…頼むから。」