好きだと言えたら[短篇]





「え?」

驚いた朱実の声。
そして俺を見上げる顔。


なぁ…そいつ誰?


たった一言聞けば良い話なのに。それすら出来ない、俺が悪いのか?もう、お前の1番は俺じゃねぇのかよ。



じっと、
真っ直ぐに朱実を見つめる。



「あ、あれ?食べ終わった?…じゃあ、片付けなきゃ!…お風呂も入る?」


でも、
いとも簡単に逸らされた瞳。


そして簡単に
俺の傍から…いなくなる。




風呂なんてどうでもいい。
今は、今は…



「…朱実。」


怖かった。どうしようもなく。もう、二度と朱実に触れることすら出来ないのではないか。もう、"好き"と言ってくれないのではないだろうか。

もう…終わりなんじゃないかって。



そう思った瞬間。
俺は自然と朱実を抱きしめていた。



ゴトン
携帯が朱実の手から落ちた。




この温もりを離したくなくて。
俺はまた、罪を犯す。




「ど、どうしたの?」


驚く朱実に一言。


「…キス。」







また、まただ。
言いたいこともいえず、
伝えたいことも伝えないまま


強引に自分の気持ちを押し付ける。




「哲平っ…」



甘い声に
甘い吐息に



俺はなかなか朱実を離せない。





好きだ。
好きだ。
好きだ。





なんで、この3文字が
言えないのだろうか。





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