好きだと言えたら[短篇]
苦しそうに
顔を歪め、頬を染める朱実。
「…風呂。」
俺はそれだけ言うと、朱実に背を向けた。
ちゃぷん。
男の1人暮らしにしては綺麗に掃除された風呂。
朱実のために
朱実がいつ泊まっても良いように毎日掃除してるだなんて絶対に秘密。
「…。」
考えるのはいつもアイツのことばかり。
恋愛なんか面倒くせぇ。
そう、言っていた俺がこうも女に嵌るだなんて良い笑いものだ。
「…無理なんだよ。」
朱実のことになると。
諦められない。
もともと面倒臭がりな性格の俺は、昔からなんでも自分にマイナスになることは後先考えず切り捨ててきた。
恋愛も
仕事も
全部。
でも、アイツのことだけは
「…。」
「橋上君って、なんていうか…不器用そのものって感じね。」
「…不器用っすか。」
「誰から見てもそうでしょう。」
キーっと
小百合さんが座っている椅子が音を立てた。
「で、どうすれば…」
「そんなの簡単じゃない。」
簡単?
何処が簡単なんだよ
ニコリと笑った小百合さんが
口を開きかけたその瞬間。
「小百合さん!ちょっとこれ見てもらえますか」
数枚のプリントを
片手に目の前に立つ新人。
「…いいわよ。橋上君、後で良いかしら。」
「あ、いいっす。」
そして小百合さんは
自分のディスクへと去っていった。
残された俺。
携帯をチラリとみても朱実からの連絡は、なかった。