あなたとホワイトウェディングを夢みて
「例のデータは完成したのか?」
相変わらずの冷たい口調の郁未だが、何故か低音ボイスがとてもセクシーで、留美の頭の芯を蕩かす様な艶めかしい声だ。
「今日が提出期限ですから。期限は必ず守ります」
思い返せば、この仕事を引き受けた時点で期限づけられていた。
なのに、ウッカリしてそんな日に専務と一騒動を起こした自分に責任があると、今更後悔しても遅い。
しかし、郁未は食堂での事を咎める事もなく、ただ「わかった」とだけ言う。
そして、その後も無言状態が続く。
デスクに向かってプログラムを組む最中の無言状態は歓迎するが、郁未とのこの状態はかなり心臓に悪い。
取り巻きの女性らが居ない所為なのか、或いは、留美が専務のご機嫌取りをしないからなのか、今の重々しい空気をどうにか出来ないのかと悩ましい。
しかし、そう感じているのは留美だけではなかった。
一方の郁未もまた、一緒にランチをした女性社員らと同じ女なのに、他の女たちと違う雰囲気を持つ留美に困惑している。
扱い難さは天下一品で、しかも、専務という立場の郁未に愛想の一つも取ろうとせず、これが女なのかと、密室状態のエレベーターに二人っきりなのに、これほど苦に感じる女はいないと悩ましい。
そして、お互いに苦痛に悩まされていると、エレベーターが七階へと到着し扉が開いた。
やっと密室から解放され、郁未がホッと溜め息を漏らした。
すると、同時に留美の口からも溜め息が漏れる。
お互いの溜め息に気付いた二人は、ハッとしてお互いの顔を見ると、目が合った瞬間、二人はそっぽを向いてエレベーターから降りていく。