あなたとホワイトウェディングを夢みて

 携帯電話を手に取った留美は怒りの表情を崩さず、郁未を見上げる。
 留美の視線の冷たさに、郁未は顔を強張らせ数歩後退りをした。まるで憎い親の敵を見るかのような留美の瞳が冷ややかで、流石の郁未もたじろぐ。

「留美、すまん。聡と二人だけで出かけるから、俺は、その……」

 どんなに言い訳を探しても、折れた携帯電話は元に戻らない。留美は壊れた携帯電話を強く握りしめると郁未めがけ投げつけた。

「よせ、留美っ……」

 留美の投げた携帯電話を間一髪避けた郁未だが、拳を上げると留美は郁未めがけ何度も叩き付ける。

「この前、ディナーをすっぽかした償いのつもりで聡さんの食事に付き合っただけなのに、なんでこんな仕打ちを受けなきゃならないの?!」

 荒らげる留美の声が甲高く震える。
 叩き付ける留美の拳は怒りの拳。郁未は敢えて振り払わずにいると、次第に拳の力は弱まり叩く動きも止まると、今度は留美の瞳から涙が流れる。

「なんで私だけこんな目に遭うの……? 私が何をしたって言うの?」

 ボソッと呟いた留美の声が郁未の耳に届くと、その切ない声に郁未の胸が締め付けられる。
 留美の止まらない涙を郁未は指先で拭いながら、両手で頬を抱きしめるが涙は頬を濡らしていく。

「泣かせるつもりじゃなかった。ごめん、留美」

 謝られても留美は郁未の行動を許せない。
 本来ならば、昨日は病院へ付き添って貰ったし今朝も体調を気にかけてくれた郁未に感謝こそすれ、怒りを向ける相手ではない。
 床に転がった壊れた携帯電話を目にした留美は、まるで二人の関係を暗示しているかの様に思えた。

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