あなたとホワイトウェディングを夢みて
スッと郁未から離れた留美が背を向ける。
「帰って……」
「留美」
「今日はもう専務の顔は見たくないの、帰って下さい」
震える声で懇願されるとこれ以上ここに留まれない、郁未はそんな気がした。
「一人で大丈夫なのか?」
「もう、いいから、帰って!」
怒りが籠もった留美の言葉。
これ以上留美に嫌われたくない郁未は、玄関土間へ戻り靴を履くと言われるままに玄関から出て行く。
――アパートの階段を下りた先にあるエントランス。
そこから動けず郁未は呆然と立ち竦む。
留美の部屋を出てからどれくらいの時間が過ぎたのか、今の郁未には予想がつかない。留美の冷ややかな瞳を思い出すと、体から力が抜けていく郁未は階段の一段目に座り込んだ。
すると、古びたアパートの住人には不似合いの一台の高級車がアパートの敷地へ入って来る。そのエンジン音に気付いた郁未が車の方へ目を向けると、留美と出掛けた時の服装のままの聡が運転席にいた。
聡の顔を見ると、午前中に留美と二人楽しそうに並んで歩いていた光景を思い出し、頭に血の気が上るとプイッと顔を背ける。
郁未の苛立つ様子を伺った聡は、わざとクラクションを何度も鳴らし『こっちへ来い』と言わんばかりに指で合図を送る。
「鬱陶しいヤツ……」
親友とは言え、今回ばかりは聡の行動を許せない郁未は、敵対視する聡の車になど世話になるつもりはない。相変わらず強気の姿勢を崩さない郁未は聡を無視する。すると、郁未の携帯電話から着信音が流れる。そのメロディは言わずと知れた聡からのものだ。