あなたとホワイトウェディングを夢みて
「私の行動にも多少反省すべきところはあるが、そもそも私の部屋へノックもなしで入るのは言語道断だろう」

 郁未が溜め息交じりに説教を始めると、縮こまる秘書の代わりに、他の秘書らが急いで床に転げるカップとトレーを片付け始めた。タオルを持ってきた秘書がコーヒーで濡れた床を拭き取ると、粗相をした秘書を残し他の秘書らと一緒にその場から離れていく。

「もういい、君も秘書室に戻れ。私が呼ぶまで決して秘書室から出るな。それに、このことは他言無用だ」
「勿論、一切口外致しません」
「他の秘書らにも周知させるように」

 深くお辞儀をした秘書は声を震わせながら部屋から出て行った。
 秘書らが全員いなくなり二人だけになると、留美は体から力が抜けたのかソファに座り込んだ。留美を横目に郁未は小さな溜め息を吐き、『鍵が欲しいな』と呟きながらドアを数回拳で軽く叩く。

「ここは会社なのよ」
「たまには息抜きも必要だろう?」

 自分だけが責められているようで納得出来ない郁未は、ソファに座る留美の目の前まで駆け寄る。

「な……なに?」

 目の前に仁王立ちになる郁未の視線が痛い。抱き合っていた時の甘い瞳とはかなりかけ離れた冷たさを感じると、留美はいつもの仕事モードへと表情が一変していく。そんな留美の態度の変化が気に入らない郁未が嫌味を言う。

「さっきのキスは俺だけが欲したものじゃないだろ?」

 ただでさえ高圧的な態度なのに、腕を組んで高い位置から見下ろされるとその視線はいつもより何倍も鋭くなる。他の女性が恋人だったときも、恋人相手に同じように冷酷な視線を向けた事があるのか疑問に思った留美はソファから立ち上がった。

「どこへ行く?」
「用がなければ仕事に戻ります」

 急いで部屋から出て行こうとする留美の腕を掴んだ郁未は力任せに引き寄せると強引にソファへと座らせた。そして、片膝をソファへ着けると前屈みなり、留美が身動き取れないように押さえ込むと留美の唇を奪った。
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