あなたとホワイトウェディングを夢みて
 たとえ恋人同士であっても、会社は仕事の場であり逢瀬の場所ではない。ーーだけど、両手で郁未の胸を押しのけ抵抗を試みたものの、甘く重なる唇は嘘はつけない。郁未の温もりや蕩けるようなキスが欲しくて堪らない。愛しい相手から求められる喜びに自らも郁未の唇を貪る。

「留美だってキス好きだろう?」

 二人のキスは二人の情熱から生まれたものだと郁未に証明されてしまうと、留美は逃げられない。

「苛めないで」
「留美が可愛くてずっと抱き締めていたいんだ」
「私は慣れていないの」

 経験豊富な郁未と違い恋愛未経験の留美では、会えない日々が続くからと社内で人の目を気にせずキスしたり、短絡的にも情熱に身を任せ燃え上がったりするなど考えられない行為だ。
 だけど今のセリフは、社内で愛し合う行為は郁未には日常茶飯事のように思わせてしまう。すると案の定、郁未が反論に出る。

「好きな女と愛し合うのは俺にも初めての経験さ」

 改めて言われるとまるで告白されているようで、恥じらう留美は頬を薔薇色に染めて郁未を見つめる。

「そんな顔をされたらもっと欲しくなるだろ」

 これ以上留美に触れると自分を止められない。理性を働かせるのも至難の業と悟った郁未はスッと留美から離れていく。そして、ほんの数秒前まで熱く抱き合っていたのが嘘のように、留美をソファに残し郁未は自分のデスクへと戻っていく。
 郁未の態度の変わりようが理解出来ない留美は苦悩する。いつもの専務としての冷静な郁未がいるかと思えば、唐突に抱き締められ体の芯から蕩けてしまいそうなキスをされる。恋愛経験が乏しい女だからプレイボーイの郁未の行動が謎めいて見えるのか、それとも、郁未の本心は他にあるのかと……、考えれば考えるほどに郁未が分からなくなる。
 すっかりいつもの専務の顔になる郁未、留美はこのまま部屋に居座って良いのか疑問に思え、部屋から出て行こうとした時だった、郁未の携帯電話から着信音が流れたのは。
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