あなたとホワイトウェディングを夢みて
 気分を少し落ち着けようと階段に座り込んでしばらく考えていた、郁未のセリフの意味を。郁未が簡単に落とした『女』が誰なのか、そして『落とした』と言う言葉の意味が何なのか。頭を抱え込んで思いつく限り悩んだ。しかし、最近の郁未の周囲には噂になった女性はいないし、存在すら感じない。
 急接近してきた郁未に困惑させられることばかりで、誘惑され続けた留美には周りが見えていなかったと自分でもうっすらと気付く。

「まさか、私……?」

 プレイボーイの郁未がすぐに抱かないのは大事に思ってくれているから。処女の自分を大切にし、プロポーズしてくれた。そう思い込む留美だが、考えれば考えるほどその思い込みも足下から崩れ落ちそうで身体が震える。
 このまま持ち場へ戻れない留美は力を振り絞り立ち上がると、郁未が本気で結婚を考えてくれていると、本人の口から聞きたい留美は階段を上り郁未がいる部屋へと戻って行く。足取りは決して軽いものではないが、それでも郁未の言葉を聞き流せないし確かめずにはいられなかった。
 エレベーターホールへやって来た留美はあたりを見渡し人の気配を探る。人影はなくひっそりとした廊下を確認すると郁未の部屋へと忍んで行く。

(彼女たちは秘書室で大人しくしてるのよね?)

 専務室での醜態を思い返すと羞恥心でいっぱいになる留美は雲隠れできる所なら何処でも良いから逃げたい気分だ。とても秘書に合わせる顔がない。秘書らに気付かれないように足音をたてず郁未の部屋へと近づいて行くと、またドア越しに人の話し声が聞こえて来る。
 それは電話のスピーカー音ではなく部屋に郁未の外に誰かいる。ドアは完全に閉まってはいるが声質から郁未とは違う男性の声だ。ドア越しだが森閑とする廊下だからか部屋の中の声は少し年配な男性の声だと判る。役員あるいはクライアントとの商談だろうかと思えた留美は郁未に確かめるのを諦め、その場から離れようとした。
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