あなたとホワイトウェディングを夢みて
 郁未の言葉は冗談でも不真面目でもなく真実を話しているように聞こえる。明らかにこれは自分が賭けの対象にされたのだ、政略結婚を嫌った郁未が縁談を破談にする為に。
 これまで郁未とは敵対していて、いつも冷酷な視線しか向けられていなかったのに、何故急に女として扱われるようになったのか、少なからず疑問を抱いていたがこれで合点が行く。
 やはり好意ではなかったと、洗練された美しい女性らを侍らせているプレイボーイが、地味で平凡で真面目しか取り柄のない社員に心を許すはずなどなかったのだ。
 思い知らされた留美はあまりの衝撃にその場から逃げ出す。そして、無我夢中で階段を駆け下り、一気に一階へと下りて行くとエントランスから社屋の外へと飛び出した。


「どうした?」

 廊下に人の気配を感じた郁未がドアを開け廊下の様子を窺う。人の足音を聞いたように思えた郁未が廊下を見渡し人影を探すが、人っ子一人いない静まり返った廊下だった。郁未はドアを閉め応接ソファの方へと行く。

「人の気配がしたのですが、気のせいだったようです」

 郁未は三人掛けのソファに座る、俊夫の真正面の一人掛けソファへと腰を下ろした。
 縁談が決まった喜びに、自然と表情が緩む郁未を見て俊夫も満足そうに微笑む。

「お前、本気で佐伯留美と結婚するつもりか?」
「勿論、留美との結婚に反対しませんよね。後になって彼女との結婚は無効だと言わないでくださいよ。それに、留美と幸せな新婚生活を送る為にも、彼女には決して今回の賭けについては漏らさないで欲しいんです」

 父親との賭けに気が咎める郁未は、何度も念を押して秘密を守らせようとする。
 賭けで負けたとはいえ息子がやっと結婚を決意したのだから、反対する理由のない俊夫は二つ返事で応じた。すると、さらに郁未から要望が出る。

「結婚式に関しては任せて欲しいのですが……」

 社長の後継者である郁未の結婚式だ、会社にとっても重要なセレモニーとなる。好いた惚れたで自分らの自己満足的な結婚式を挙げることは当然ながら望めないと郁未は百も承知だ。だが今後、何かと後継者の妻として我慢を強いる場面が増えて行くだろうと思うと、結婚式だけは留美の望みを叶えてやりたいと譲れない。
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